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見てみた1回目2

意味も分からないかたも多いでしょうが、勘弁してやってください。
いつまでもニヒリストを気取っていてもしょうがないので、いつものようにテレビの話。

NHK総合(土)21:00~ マチベン
意外に面白いです。江角マキコはそれほど好きな女優ではなかったのですが、今作では、これまでのような自意識の高さが見えず、良い感じです。
キャストも派手さはまったくありませんが、堅実でしっかりと丁寧な作りになってます。
江角マキコは、ヤメ検、しかも紹介者不要、着手金なしという町の弁護士、マチベンという役ドコロ。
初回の依頼人は娘を放火によって突然失ってしまったバーのママ松田美由紀。犯人が未成年だったため、娘の死の真実を知らされることがなかった松田美由紀は、江角マキコへ民事訴訟の起こすことを依頼する。
ここから江角マキコが真実を明らかにしていくわけですが、きちんと謎解きがあり、登場人物たちの心の動きがあり。
山本耕二が大手弁護士事務所を辞めたのは唐突な感じもしましたが、全6回ということを考えればしかたのないところ。
HPの写真もカッコいいですね。今後が楽しみなドラマです。

それにしても、娘役で岩田さゆりは出ていたものの、あまりに渋いキャスト。タッチとしては「ザ・プラクティス」とかあんな感じになるのかしら。
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引用ーハヤカワ・ミステリ文庫<HM7-1>長いお別れ レイモンド・チャンドラー 清水俊二訳ー

 一時間ほどたって、彼女ははだかの腕をのばして私の耳をくすぐりながらいった。「私と結婚しようと思わない?」
「六ヶ月とつづかないね」
「つづかなかったからって、それがどうなの」と、彼女はいった。「試してみる価値があると思わない? あなたは人生をどんなふうに考えてるのー危険なことはなんにもしないつもりなの」
「ぼくはことしで四十二になるまで、自分だけを頼りに生きてきた。そのために、まともな生き方ができなくなっている。その点では、君も少しばかりまともじゃないーぼくとちがって、金のためなんだが」
「私は三十六だわ。お金があることは恥辱じゃないわ、お金と結婚することだって恥辱じゃないわ。お金を持っているひとはたいていお金を持つ資格のないひとで、どんなふうにお金をつかっていいかも知らないのよ。でも、永いことはないわね。もう一度戦争があって、その戦争が終われば、泥棒といかさま師のほかはだれもお金なんて持っていないのよ。税金にみんなとられて、一文なしになっているのよ」
 私は彼女の髪をなて、その一部を指にまいた。「君のいうとおりかもしれないね」
「いっしょに飛行機でパリへいって、楽しくあそべるのよ」彼女は肩肘をついてからだを起こし、私の顔を見おろした。瞳が輝いているのは見えたが、表情を読むことはできなかった。「結婚に反対する理由がなにかあるの」
「百人のうちの二人にとってすばらしいことさ。あとの九十八人にとっては形式にすぎないんだ。二十年もたってみたまえ。男に残されているものは車庫の中の腰かけぐらいのもんだ。アメリカの女性はどう考えてものさばりすぎるからね」
「シャンペンがほしいわ」
「それにー」
と、私は言葉をつづけた。「君にとっては、結婚も離婚も日常茶飯のことなんだ。だれだって、最初の離婚のときはなやむだろうが、二度三度となると、経済的な問題だけになる。それは君には問題じゃない。十年たって、往来でぼくとすれちがっても、どこかで会ったような男だと思うだけさ。それもぼくが目にとまったとしてだがね」
「あきれたわね。手がつけられないおばかさんだわ。シャンペンをちょうだいよ」
「こんなつきあいをしてれば、君もきっとおぼえるよ」
「大へんな自信だわね。私があなたをおぼえていると思う? 何人の男と結婚しても、何人の男といっしょに寝ても、あなただけはおぼえてるというの? なぜあなただけをおぼえていなければならないの」
「まいった。少々いいすぎたかもしれない。シャンペンをとってこよう」
「私たち、いい組み合わせじゃないの」と、彼女は皮肉な口調でいった。
「私はお金持ちよ。これからもいくら財産がふえるか、わからないのよ。もし買う値打があるんだったら、この世界だって買ってあげられるわ。あなたは何を持っているの。家へ帰ったって、犬や猫がいるわけじゃなし、オフィスは息がつまりそうになるほどちっぽけだしー私と離婚したあとでも、こんな生活をしないですむのよ」
「どんな生活をしようと、ぼくの勝手さ。ぼくはテリー・レノックスじゃない」
「おねがい、あのひとのことはいわないで。ウェイドの奥さんの話もしないでちょうだい。もちろん、哀れな酔っぱらいのウェイドの話もよ。あなたは私をはねつけたたった一人の男になりたいの。それがそれほど自慢できることだと思ってるの。私がこれだけいっているのがわからないの。結婚してくださいといったのよ」
「それ以上のことをしてくれたからね」
彼女は泣き出した。「ばか! ばか!」頬に涙が流れた。涙は私の頬にもつたわってきた。
「半年か、それとも一年か二年つづいたとして、あなたにどんな損があるの。オフィスの埃だらけのデスクやいつも塵がたまってる窓のブラインドやひとりぼっちのさびしい暮らしがそんなにありがたいの」
「まだシャンペンがほしいのか」
「いただくわ」
私は彼女をひきよせた。彼女は私の肩に顔をうずめて泣いた。私を愛しているわけではなかった。私たちはどっちも、そのことをよく知っていた。彼女は私のために泣いているのではなかった。涙を流してみたいだけなのだった。
 やがて、彼女が身を引いて、私はベッドから出た。彼女は顔をなおすために浴室に入った。私はシャンペンのびんをとりあげた。浴室から戻ってきた彼女は微笑をうかべていた。
「泣いたりなんかして、ごめんなさいね」と、彼女はいった。「六ヶ月もたったら、きっとあなたの名前もおぼえてないでしょうね。居間へ持ってきてちょうだい。明るいところの方がいいわ」
 私はいわれたとおりにした。彼女はさきほどとおなじように長椅子に坐った。私はシャンペンを彼女の前においた。彼女はグラスをながめただけで、手をつけなかった。
「いっしょに飲もう」と、私はいった。
「さっきのように?」
「さっきのようなことは二度とないさ」
 彼女はシャンペンのグラスを眼の前にさしあげて、わずかばかりの酒をゆっくりと飲んでから、からだを横に向けたかと思うと、残ったシャンペンを私の顔に浴びせた。そして、また泣きはじめた。私はハンケチを出して、顔を拭き、彼女の顔を拭いた。
「なぜこんなことをしたのか、わからないわ」と、彼女はいった。「でも、お願いだから、女はいつも自分のしていることがわかっていないなんていわないでちょうだい」
 私は彼女のグラスにシャンペンを注ぎなおして、笑って見せた。彼女はグラスにゆっくり口をつけて、向こうをむくと、私の膝にからだを倒した。
「つかれたわ」と、彼女はいった。「こんどは抱いていってちょうだいね」
 しばらくしてから、彼女は眠りにおちた。
 朝になって、私がベッドから起き出して、コーヒーをわかしていたとき、彼女はまだ眠っていた。私はシャワーを浴びて、顔をそり、服を着た。それから、彼女が起き上がって、いっしょに朝食をとった。私はタクシーを呼び、彼女の旅行カバンをぶらさげて階段を降りた。
 私たちは別れの挨拶をかわした。車が角をまがるのを見送ってから、階段をのぼって、すぐ寝室へ行き、ベッドをつくりなおした。枕の上にまっくろな長い髪が一本残っていた。腹の底に鉛のかたまりをのみこんだような気持ちだった。
 こんなとき、フランス語にはいい言葉がある。フランス人はどんなことにもうまい言葉を持っていて、その言葉はいつも正しかった。
 さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ。